惑星のボイド その2


 ● Void of Course the Moon 2


● ボイド・オブ・コースというのは、西洋占星術で使われる概念で、

『惑星が今居るサイン内で、その後、他の惑星にコンジャンクションやアスペクトをしないとき』

のことです。しかし、ボイドの状態そのものが、直接チャート全体に、又は物事に直ぐに影響を及ぼすわけではありません。これは、(ボイドであるという状態)であるだけ、なのです。

 

 ● ボイドの説明 その1で見てきたように、

 ボイドだからといって、月がサインを越えて土星にアスペクトをしに行き、それが完成されることを否定しているわけではありません。

 

 何も結果が出ないということではないのです。

 

 リリーの例でも、(C.A p.152)

 月がサインを超えて土星とアスペクトをした時に、物事が完成しました。

 

 カレントが努力をしないように、という方向に占星術師が意図することはできます。そこが、怖いのです。

 

 リリーはp.152のチャートの説明で、月がボイドであるとは書いていません。『サインを越えて土星とアスペクトをする』と書いています。


 月は激しく移動をする惑星なので、遠くへ出かけている息子の表示星です。土星は、4ハウス(家)のロードであり、4ハウスのカスプの上に置かれています。まさに家です。そこへ月がアスペクトをするので、息子は家に帰ると判断しています。又、息子は5ハウスで示されますが、そのロードは木星で、その木星もアセンダント、クライアント自身の場所に入っています。ですから、この木星の表示によっても、息子は直ぐに家に帰るのだと読めるとリリーは言います。結果はその通りでした。

 

 ボイドは物事を否定するというような意味合いが確かにあるのですけれども、それには様々な条件があります。次は、その様々な条件についてお話したいと思います。

 


● 説明した概念の他に、次のような事柄もボイドを把握する場合には重要になります。

 

 (1) ボイドは月だけでは無く、他の惑星もボイドになります。

 下記の図は、マシャ・ア・ラーの本に載っている角度に基づいたチャートです。

マーシャー・アラーは、“The lord of Ascendant, Mercury, was void in course ... ” 水星も月もボイドだよと語ります。

ロバート・ハンド氏訳「On Reception」12pから

 

 

 (2) 同じサイン内でボイド。

 2つの惑星のオーブを足して、先端同士が届いていなかったならボイドです。つまり、サインを越えてもオーブを足せます。

 

 例えば、月が2度にあり、木星が25度にあると、その差は23度あります。両方の惑星のオーブを足しても21度です。互いのオーブの端も届きません。ボイド(空虚)です。これは、国内で販売されているボイドの表では計算されていません。

 

 注目している惑星が同じサイン内で、別の惑星に、角度に従ったアスペクトを完成しないなら、それはボイドです。

 『進行方向にアスペクトを持たない』という定義に、見事に合致します。

 

 上のチャートの説明でマーシャー・アラーは、月は金星にアスペクトをしに行く。そして、それは効くとして更に話を進めていきます。

 


● ボイドに条件があるんだ! そうなのです。そう思った人は、次を読み進めて下さい。

 

 その前に、何故、月のボイドがうるさく言われるのかの理由です。

  

 西洋占星術は、天球構造で考えることがよくあります。月下の世界(我々の世界)と言う呼び方もよくします。月の天球の上には、水星の天球、金星の天球、太陽の天球・・・星座の天球、サインの天球と続いていき、神々の采配は上から行われることになっています。

 

 月よりも上の天球で物事が成就すると示されていても、全ての物事は月の天球を通ってやって来るので、月の天球がフィルターのような役割をすると考えて下さい。月の天球が乱れている、例えば、ボイドだと、物事は乱れるわけです。せっかく月の天球よりも上の天球で示された事柄が、月下の世界にキチンと届かなくなるというわけです。 それが、月のボイドです。

 

 余多いる過去の熟達者達は、月の天球が悪いとどうなるかを格言に残しています。イタリアの占星術師ボナタスの格言を、ウィリアム・リリーの弟子、ヘンリー・コーレイが下記のように英文に直しています。

 

 "19. The Nineteenth Consideration is, To behold the Moon, if she be "void of course," for then it signifies an impediment to the thing in question: it will not come to a good end, nor be accomplished; but the Querent shall be forced to desist with shame and loss. "

『19番目の考察。 月を観よ。もし彼女がボイドであったならば、質問された事柄の一種の妨害の印である。それでは良い終焉が来ない。そればかりでなく、完成もされない。ただ、カレントは不面目と損失を受け、断念せざるをえない。』

 

 なんて悪く書かれているのでしょうか 

 

 でも、例題に出しているチャート類は、両方ともどうも上に書かれているようなボイドに当てはまっていません。いったい、本当のところ、上記で言うボイドとは何なのでしょうか?

 


● 話をボイドそのものに戻します。

 

 ボイドは『物事の完成を阻む』という意味ではありません。阻む場合もあるにはあります。その区別はホラリー占星術で体感しないとどうしようもなく、理解しにくい概念です。

 

 惑星達はオーブを持ちます。同じサイン内でアスペクトで、あるいはコンジャンクションで相手の惑星をオーブ内で捉えていながら、完成をする時にはサインを超えることがあります。他に角度に従ったアスペクトをする惑星が無ければ、これも実は、ボイドです。

 

 しかしながら、しばらくして角度によるコンジャンクションやアスペクトが完成するなら、物事も完成します。ボイドではありながら、違った場面が登場するというわけです。リリーのCA.(クリスチャン・アストロロジー)p.152のチャート[一番上のチャート]通りです。

 

 サインを超えてアスペクトやコンジャンクションをする場合にもボイドと呼ばれますが、サインを超えてからそれらを完成させた時に、物事は完成に向かいます。

 

 一般に言われている事は、

  『ボイドを考慮する時には、サインの端までを考慮する』

という規定があります。これは、明らかに昔からの偏った概念がそのまま伝えられています。ウィリアム・リリー、C.A p.112の中での偏った定義です。リリーは、そう定義していながら、月を含める惑星達をサインを超えて考慮しています。上述の通りです。これは、当然の事なのです

 

 どのような場合にもサインの端に来たらそれでボイドだからその先を考慮しない、ということはありません。サインを超えてアスペクトなりコンジャンクションなりを完成させることで、物事の完成をみる例は枚挙にいとまがありませんから、ホラリーを勉強すると、それを直に確めることができます。体感することができます。

 

 鵜呑みにしていては、いつまで経ってもボイドの意味が捉えられません。

 


● ボイドの歴史的な 変遷

 遠くヘレニズム時代(ギリシャ時代)にまで遡ると、ボイドの概念は様相を異にしています。そこでは月にのみ言われ、月の前方に30度のコンジャンクションやアスペクトをする惑星が無ければボイドとされました。サインの境界は全く無視されています。

 

 これは、7~8世紀のアラブの占星家が残した本で「荒野に居る月(ワイルドネス)」という概念に近いものです。占星術がギリシャで生まれ、ペルシャを通ってアラブに伝えられるどこかの段階で、経験豊かな占星術師達が、このような月のボイドでも、サインの端までで切り捨てて効く場合があることを見付けたのです。それが定義に反映されたと考えるのが素直です。

 

 そうで無ければ、マーシャー・アラーにしてもサエルにしても、アラビアで書かれた占星術の教科書の中に「ボイドは、月がサインの端に達するまでに、他の惑星と接合しないこと」と、書かなかったはずです。効く時と、効かない時、これが有る事を悟った占星家達でした。

 

 確実に、その使い方は月を次のサインにまで動かして考慮をしています。

 

 どこかにヘレニズムの影響が垣間見えますが、説明は実に間尺に合いません。

 

 この時、質問の『質』によって違うと気付いていたとは思うのですが、書かれていません。

 

 まったく不親切極まりない書き方は、(占星術のテキスト類全般に渡ってそれは存在しているのですが)、やはり教科書であったからという言い方が的を得ていると思います。

 

  経験を積めば分かってきます。

  それは、失敗を繰り返すということです。

  教科書は教科書だけで、機能をしないのです。

 

 例えばイブン・エズラというスペインに住んでいた11世紀のユダヤ人占星家は、「ボイドは、コンジャンクションなら15度、アスペクトなら6度以上、他の惑星からセパレートしていて、今居るサインの中で・・・」と書いています。他の占星家の定義と違いますから無視しても構わないものです。しかし、彼が何故、そういう考え方に至ったかには興味を持たれるでしょう。その意見をここで話すと、ますます混乱を与えるのでしません。

 


● イレクショナルなテクニックでは、月がボイドの時は、お風呂に入ったり、床屋へ行ったり、美容院へ行ったり、マッサージに行ったり、恋人と愛し合ったりするにはとても相応しい時間帯なんだよとあります。楽しみの為に使うなら問題が無いよと、書かれています。

 

 小旅行・旅は本来火星に属する危険な物なのですが、今日提供される旅は楽しみの為のものですから、月がボイドの時でも相応しいでしょう。髪を結う、髭をそる、楽しいショッピングでもいいでしょう。散歩、ゆったりする事、神社にお参りに行く、これら自然と戯れる時間も同時に良さそうです。

 

● ボイド・タイムにより有効に作用することは多いのです。

 

 

※参考文献 

Rhetorius The Egyptian、ジェームス・H・ホールデン, 24p

Christian Astrology、ウィリアム・リリー、112p、及び、158p

Introductions to Traditional Astrology、ベンジャミン・N・ダイクス、142p

Māshā'allāh、On Reception、ロバート・ハンド、